うつ病の原因
うつ病は、気分の落ち込み、無気力、何をしても楽しくないなどの精神状態が続き、食欲不振、不眠症、疲れやすいなどの障害を伴い日常生活に大きな支障が生じます(図1)。原因は脳内の神経伝達物質のアンバランスに起因すると考えられています。
■うつ病による各種症状(図1)
うつ病がどのように起こるかは、はっきりと解明されていませんが、脳の神経伝達物質の乱れだけでなく、うつ病になりやすい人(性格や生活スタイルなど)やうつ病を引き起こすストレス(環境の変化やプレッシャーなど)があり、多くの要因が重なることで、うつ病になると考えられています。
排出されるミトコンドリアDNAの量は健康な精神のバロメーター
ミトコンドリアの機能障害が、このうつ病(Major Depressive Disorder:MDD)の原因ではないかと、多くの医療者がそのメカニズム解明に取り組んできました。
ミトコンドリア内には細胞とは独立した環状のミトコンドリアDNA(mtDNA)が存在し、ミトコンドリアが分裂する際に複製されます。機能障害に陥ったミトコンドリアは、細胞の安全・安定を保つため細胞外に排出されるので、血液や唾液に含まれるmtDNAの量を調べればミトコンドリアの機能低下の状態が分かります。
ミトコンドリア障害とうつ病の関係
2015年に発表されたNa Caiらによる研究によれば、うつ病(MDD)と血液中のmtDNAの量に相関関係があることが確認されました。さらに同研究においてストレスにさらされたマウスの唾液と血液中のmtDNA濃度とテロメア※の長さを測ったところ、ストレスを受けたマウスの排出mtDNA量が増加し、テロメアの長さが短縮することが確認されています(図2)。
現在、うつ病とミトコンドリア障害の関連はほぼ間違いないと考えられていますが、今後のより詳細な研究が待たれる状況です。
■ミトコンドリアDNAとうつ病の関係(図2)
うつ病の2つの分子マーカー
ミトコンドリアDNA量とテロメアの長さの比較によって、ストレスとマーカーが相関していることが分かります。
出典:Current Biology 25, 1146–1156, May 4, 2015 Figure2
❶ストレスにさらされたマウスの唾液中のmtDNA量
❷ストレスにさらされたマウスの血液中のmtDNA量
❸ストレスにさらされたマウスの唾液中のテロメアの長さ
❹ストレスにさらされたマウスの血液中のテロメアの長さ
期間は0週から8週
左がストレスを与えられたマウス、右がストレスなしの比較群
※テロメアはDNAの末端に存在し、繰り返される細胞分裂の際に複製されるDNAの形を保護すると考えられていますが、細胞が劣化すると短くなることが分かっています。
栄養書庫発行 : 『よくわかる健康サイエンス-3 神様の贈り物 ミトコンドリア活性で老い知らず』より