エネルギー産生の方法は解糖系とミトコンドリア系
ミトコンドリアを活性化するためには運動することが非常に重要です。けれども、日ごろは意識していないのですが、同じ運動でも種目によって解糖系かミトコンドリア系か、用いるエネルギー産生の方法には大きな違いがあります。
無酸素と有酸素
たとえばオリンピックの100メートル走でメダルを争うような場合、このとき選手は呼吸をしていません。スタートからゴールまで息をとめて無酸素で走っています。つまり、100メートル走の選手の筋肉は、解糖系だけで動いています。
逆にマラソンの選手は有酸素で走ります。長距離走に挑むには、ずっとリズミカルに呼吸を繰り返し、たくさんのミトコンドリアの頑張りが必要になります。マラソンの選手がよく高地トレーニング(※1)を実施するのは、酸素の少ないところに行くと細胞がミトコンドリアの数を増やして酸素不足を補おうとするからです。
標高2000メートル、あるいは3000メートルの酸素の薄い場所でトレーニングすることでミトコンドリアの数を増やし、平地に戻ったときには呼吸で得られる酸素量も通常に戻っていますから、細胞は大量のエネルギーを作り出すことができるよう変化しているのです。
生物はハイブリットのシステムが必要
以上のようなそれぞれの特徴を知ると、生物には解糖系の瞬発力と、ミトコンドリア系の持続力の両方を併せ持つ必要があった、だからハイブリッドのシステムがとても都合がよくて、長きにわたりその体制を持続してきたと考えられます。
ライオンから逃げるために
たとえば、以下のような状況を想像してみることができます。
太古の昔、草原を歩いていた私たちの遠い祖先が猛獣に遭遇したとします。かりに、それをライオンとしましょう。少しでもライオンが襲い掛かるそぶりを見せたなら、祖先の人間はそれこそ必死になって、全力で走って逃げたでしょう。このときの必死の走りは、まさに100メートル走のように無酸素です。少しでも早く走らなければ、すぐに追いつかれてライオンの餌食になってしまいます。
うまくライオンから逃げ延びたとしても、すぐに安心するわけにはいきません。辺りには別のライオンが潜んでいるかもしれませんし、遠くから執拗に追いかけてきている可能性もあります。無酸素の全力走行は長続きしませんが、それでもなるべく速やかに少しでもこの場所から離れる必要があります。
このとき、私たちの遠い祖先はマラソン選手のようにリズミカルに呼吸しながら先へと急いだと想像されます。長距離をなるべく急ぎで移動するには持続力が頼りで、ミトコンドリア系の有酸素エネルギーが必要となります。
ハイブリットシステムで生存確率を高めた
いずれにせよ、解糖系とミトコンドリア系の両方をエネルギー産生システムとして備えていたほうが生存確率は高まります。こうして現在生存している多くの多細胞生物は、このハイブリッドシステムを受け継いだと考えることができます。
2 つのエネルギー供給システム
解糖系とミトコンドリア系のエネルギー産生システムを持つことによって、瞬発力と持続力の両方を手に入れ生存確率を高めることができました。
※1 高地トレーニング:標高が高く気圧が低い「低圧低酸素環境」に一定期間滞在し、トレーニングすること。低酸素による負荷の強化より、酸素運搬能力等の増強をはかる。
栄養書庫発行 : 『ミトコンドリア活性で健康長寿』より