森の散歩
もし時間にゆとりがあるようなら、ウォーキングの場所にもこだわってみましょう。とくにお勧めは森の散歩です。少し足を延ばして、樹々に囲まれた小道を普段と同じようなペースで歩いてみると、それだけでミトコンドリアの活性化について特別なボーナスを得ることができます。
森の空気と健康の関係
森林を訪れると、さわやかな空気に感動して思わず深呼吸してしまいます。古くから森の空気が健康を増進することは知られており、「森林浴セラピー」(※1)や「自然療法」といった医療としての効能からも明らかにされています。
植物のフィトンチッド
この森林の空気にあふれているのが、樹木が作り出し放出するフィトンチッド(※2)です。フィトンチッドは、植物が放出する揮発性物質であり、抗酸化作用があります。また、フィトンチッドは呼吸機能を改善し、ミトコンドリアの活性化を促すことが知られています。これらの作用が相乗し、森林浴がミトコンドリア病(※3)の治療や予防にも効果があると考えられています。
森林浴の促進に力を入れている
林野庁でも、急速な高齢化社会やストレス社会の進行に伴って森林の保健休養機能に注目し森林浴の促進に力を入れています。多様な森林整備や保全活動の要請に対応した国民参加の森林づくりを推進しているので、気軽に出かけてウォーキングを楽しむことのできる環境も整ってきました。
森林パワーを日々の生活にとり入れる
ぜひフィトンチッドを味方につけて、森林のパワーでミトコンドリアをさらに応援しましょう。また、森林でなくとも、せめて街路樹や緑の濃い公園を選ぶことで、日々木々の香りを感じることができるでしょう。
都市部と森林部で10 分間歩行、その前後で代表的なストレスホルモンであるコルチゾールの濃度を比較しました。都市部ではコルチゾールの値が上昇し、森林部では低めで安定したままでした。このことから、フィトンチッドの影響で副交感神経の働きが優位になり、心身がリラックスしたことが示唆されました。
都市部と森林部の両方で、座観(森林セラピーの一環で、自然の中で静かに座り、深呼吸しながら過ごすこと)の前後で血圧、脈拍をはかったところ、森林部では明らかに血圧が下がりリラックス効果が得られたことが明らかになりました。
※1 森林浴セラピー:心身の健康維持や増進、疾病の予防を目的として、森林の持つ癒し効果を体験すること。リラックス効果やストレス軽減、血圧や心拍数の安定、ナチュラルキラー細胞の活性化、がん細胞への免疫力向上などの効果が期待される。
※2 フィトンチッド:1930 年ごろにロシア・レニングラード大学のボリス・トーキン博士が発見。植物が傷つけられた際に放出される、殺菌性を持つ揮発性物質を指す。
※3 ミトコンドリア病:ミトコンドリアに異常が生じ、さまざまな症状が現れる病気の総称。
栄養書庫発行 : 『ミトコンドリア活性で健康長寿』より