お茶の水女子大学教授・食品化学研究室
森光 康次郎 農学博士
薬草から本格的な機能性の研究、機能性の解明へ
古くから薬草として用いられ、わさびの健康作用はよく知られていました。ただ、寿司、そばの薬味=食用として慣習付いたこともあり、江戸時代以降、効能に関する注目は薄れてしまったという歴史があります。
ようやく本格的なわさび研究が始まったのは1970年代。当初は静岡大学による香り(辛さ)の研究が中心。そして、ほかの大学や企業などによる研究も広がり、わさびに含まれる有効成分や機能性の解明が進められてきたのです。これらの機能性が認知されると同時に、それを有効活用しようという動きも進んでいます。
イソチオシアネートの機能性の多さに注目
アブラナ科野菜には、キャベツや白菜などの根菜類、ブロッコリーやカリフラワーなどの花菜類、ナスやマスタードなどの種子類、そして、カイワレ大根などの新芽(スプラウト類)といった多くの食用野菜が含まれます。
食用中心のアブラナ科野菜の発がん抑制(またはがん予防)という機能性が、近年、イソチオシアネート類という特徴的な成分とともにクローズアップされています。がんの発生を未然に防ぐような成分を含んだ食品を積極的に摂取すれば、がんが原因の死亡率を低下させることができるという考えは、疫学的調査機関からも支持され、アブラナ科野菜のイソチオシアネート類は現在、最も注目される食品素材のひとつとしてあげられています。
イソチオシアネート類が多く含まれているわさび
わさびには、このイソチオシアネート類が数多く含まれており、少なくとも21種類が確認されています。イソチオシアネートを中心に、わさびに関する多くの実験や研究が進み、発がん抑制をはじめ、抗酸化、抗炎症作用などの機能性が報告されています。
わさび研究は近年さらに進んでおり、花粉症抑制作用を生かしたマスク、消臭作用を利用した車の消臭剤などが実際に商品化されています。今後ますます、わさびの持つ健康・美容力は私たちの生活を快適にしてくれると確信しています。
森光 康次郎(もりみつ やすじろう)
お茶の水女子大学教授・食品化学研究室
名古屋大学農学部食品工学科卒業。同大学院に進学、農学博士を取得後、静岡県立大学食品栄養科学部助手、名古屋大学農学部・助手を経て、1999年より、お茶の水女子大学生活科学部助教授、現在、同大学の食品化学研究室教授。著書「がん予防」、「からだと食の科学」など多数。
栄養書庫発行 : 『Nutrient Library-9 わさびの健康・美容力』より