NADは最も重要な補酵素
補酵素の多くは生体内でビタミンからつくられています。補酵素は酵素が完全に作用するために必要な補助分子です。ビタミンB群のナイアシンは500種類もの酵素反応に関与します。その最も重要な役割のひとつが生命維持の基盤であるエネルギーをつくりだすこと。ナイアシンであるNAM(ニコチンアミド)はNMN(ニコチンアミド モノヌクレオチド)に変換され、さらにNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)というかたちになって働きます。
生物の老化に深く関わるNAD
生物は体内に取り込んだ食物や酸素を利用してエネルギーを生み出しています。哺乳類の細胞のミトコンドリア内には、細胞内の30~70%のNADが存在し、エネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)の産生過程で必須の役割を果たしています。
NADの合成量は加齢とともに減少します。NADが減るということは生命力の低下を意味します。加齢とともに臓器や組織の機能低下が起きるのはそのためで、人間から線虫に至るまで、生物の老化の引き金になるのがNADの減少だと考えられています。
もうひとつの重要な役割「サーチュイン遺伝子の活性化」
サーチュイン遺伝子は普段はほとんど機能せず、カロリー制限(飢餓状態)によって活性化します。体内に取り込まれる糖の量が少なくなると、ミトコンドリアは体内の脂肪を使ってATPを産生します。その過程でNADが合成されます。NADが増加するとサーチュイン遺伝子の活性化スイッチが入り、サーチュインと呼ばれるタンパク質(サーチュイン酵素とも)がつくられます。このサーチュイン酵素が細胞内部に増えることで、老化抑制に寄与するさまざまなメカニズムが働くと考えられています。
①外部由来のナイアシン吸収
② NAMPTによってNAM からNMNに変換
③ NMNATによってNMNとATPからNADを合成
④サーチュインやPARPsなどによるNADの消費
⑤ NAMへの分解反応
Salvage pathway(サルベージ経路):
3つあるミトコンドリアNAD生合経路のうちの主要経路。NADの消費に伴い産生されるNAMが再利用されるサルベージ経路は、NADレベルの維持に非常に重要。
▶NADの代謝サイクル
NADはNAM(ニコチンアミド)を材料として2段階の酵素反応を経て合成されます。NADはサーチュインやPARPs(遺伝子修復酵素のひとつ)などが媒介する酵素反応に使用され、その過程で産生されたNAMは再利用されます。
合成されたNAD+は、PARPsやサーチュインなどのNAD+消費酵素の反応を促進します。PARPsはDNAの損傷修復、サーチュインは遺伝子発現や細胞ストレス応答などを調節し、老化制御に関わる複数の経路に関与しています。
栄養書庫発行 : 『Nutrient Library-33 NMNの秘密』より