新潟薬科大学.健康・自立総合研究機構.特別招聘教授
自然免疫制御技術研究組合研究本部長 自然免疫応用技研株式会社副社長
稲川裕之 薬学博士
自然免疫の研究は30年前から
私が「自然免疫」の研究に取り組み始めたのは、今から30年も前のことです。もともと工学部出身の私は、最初に就職したのが現在のコニカミノルタ。次世代製品開発グループの中の、免疫プロジェクトチームに所属していました。
入社してすぐの頃、会社の指示で帝京大学の水野傳一先生がプロジェクトリーダーを務めていた「水野バイオホロニクスプロジェクト」に参加したことがきっかけで、現在に至っています。水野先生は、マクロファージという細胞の生理的な活性化に着目した研究をされていました。
私は先生のさまざまな教えに感銘を受け、そのまま帝京大学薬学部で研究を続けて博士号を取りました。現在、香川大学医学部の杣源一郎先生がこのプロジェクトを引き継いでおり、私もそこに所属。「システムとしての自然免疫」「制御細胞としてのマクロファージ」「制御分子としてのLPSに着目した健康維持」などを主な研究テーマとしています。
マクロファージの研究で出合ったLPS
さて、私たちがマクロファージの働きを研究し、その機能を生理的に活性化できる物質を探していく中で出合ったのが、LPSという物質です。私たち人間の健康を維持するマクロファージは、私たちの身の回りに自然と存在しているものから活性を左右する情報を得ているはずだと考え、食品のスクリーニング(選別)を開始しました。そして、小麦粉の中にマクロファージを活性化する物質があることを突きとめました。さらに研究を進めた結果、小麦に共生しているパントエア菌という微生物の細胞表面に、マクロファージを元気(生理的活性化:プライミング(後述))にする物質があることがわかったのです。
LPSとは
その物質名は糖脂質。英語では「リポポリサッカライド」、略してLPSと呼ばれる物質でした。私たちは小麦粉の中から LPSを発見しましたが、実は野菜や果物、穀類には、必ず微生物由来のLPSがくっついて、マクロファージを活性化することがわかりました。つまり、正常な自然の中で獲れた作物を食べている人は、知らず知らずにLPSを摂取しているわけです。
アレルギーとLPSの関係
ところが、農業の近代化が進んで土から離れたり、過剰に衛生的といえるような環境では、微生物も生きていけなくなり、LPSの量も少なくなります。実は、現代病ともいわれる花粉症をはじめとするアレルギー疾患の急増は、LPS摂取の低下とも深く関わっていると考えられています。
マクロファージを活性化するLPS
また、アレルギー疾患だけでなく、各種の生活習慣病や、がんなどの恐ろしい病気の予防にも、LPS摂取が大きく影響すると考えられています。私たちの健康を左右するマクロファージとはどのような働きを持つのか、そしてマクロファージを活性化するLPSとはどのような物質なのか、一緒に見ていきましょう。
稲川 裕之(いながわ ひろゆき)
薬学博士
新潟薬科大学.健康・自立総合研究機構.特別招聘教授
自然免疫制御技術研究組合研究本部長 自然免疫応用技研株式会社副社長
埼玉大学工学部卒業。新技術開発事業団研究員、帝京大学助手、水産大学校准教授などを経て、2010年より自然免疫制御技術研究組合研究本部長、2011年より香川大学医学部統合免疫システム学講座客員准教授、2016年より新潟薬科大学特別招聘教授(兼務)。生物個体に備わった免疫機構解明を専門とし、30年間にわたりマクロファージの活性化制御に基づく難治性疾患予防等の研究に携わる。また、食品の機能性成分としてのグラム陰性菌のLPSの有用性を約30年前に見出し、以来LPSの有用性に着目した研究も展開している。自然免疫制御技術研究組合研究本部長、NPO環瀬戸内自然免疫ネットワーク理事兼務。
栄養書庫発行 : 『Nutrient Library-3 パントエア菌LPSの秘密』より