
運動模倣食品の研究
「運動が筋肉づくりに良いことは分かってはいるけれど、なかなか体を動かすのはおっくうで…」というのが、多くの方の本音ではないでしょうか?とくに、年齢を重ねるにつれて、体力的な問題や時間の制約などから運動を継続することが難しくなることもあります。
そんな中、近年、運動をしなくても運動した時と同じような効果を得られる可能性がある「運動模倣食品」の研究が、世界中で活発に進められています。
当書の著者である片倉喜範の専門もまさしくこの分野で、前著「ミトコンドリア活性で健康長寿」でもその研究の一部を紹介しています。
AMPKという酵素
運動模倣物質の研究は、1980年代に遡ります。当時、研究者たちは、運動中に筋肉で何が起こっているのかを分子レベルで解明しようとしていました。そして、その過程で、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)という酵素が、筋肉のエネルギー代謝において重要な役割を果たしていることを発見しました。
AMPKは、細胞内のエネルギー状態を感知するセンサーのようなもので、エネルギーが不足すると活性化し、糖の取り込みを促進したり、脂肪の燃焼を促進したりする働きがあります。つまり、AMPKは、運動によって筋肉がエネルギーを必要とする際に、そのエネルギー供給を調整する役割を担っているのです。

AMPKを活性化する物質
この発見は、運動模倣物質研究の大きな転換点となりました。もし、AMPKを薬や食品成分で活性化することができれば、運動をしなくても運動した時と同じような効果を得られるのではないか?そんな発想が生まれたのです。
AMPKを活性化する物質として、最初に注目されたのが、赤ワインやブドウに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロールです。
レスベラトロールを投与する実験
2006年、フランスの研究グループは、マウスに高脂肪食を与えながら、レスベラトロールを投与する実験を行いました。その結果、レスベラトロールを投与されたマウスは、高脂肪食を摂取していたにも関わらず、体重増加が抑制され、インスリン感受性が改善し、ミトコンドリアの機能が向上するなど、まるで運動をしているかのような効果が見られたのです※。この研究は、世界中で大きな反響を呼び、レスベラトロールは、一躍「運動模倣物質」の代表格として注目されるようになりました。
多様な運動模倣物質の発見
レスベラトロールの発見をきっかけに、世界中で運動模倣物質の研究が加速しました。そして、レスベラトロール以外にも、さまざまな物質がAMPKを活性化し、運動模倣効果を持つ可能性が示唆されるようになりました。

※ Lagouge M, et al. Resveratrol improves mitochondrial function and protects against metabolic disease by activating SIRT1 and PGC-1alpha. Cell. 2006;127(6):1109-1122.
doi: 10.1016/j.cell.2006.11.013.
『最高の健康生活5つの新常識』より

