ミトコンドリアの劣化が関与
ミトコンドリアの劣化が認知症の一つであるアルツハイマー型認知症に関与していることも明らかになってきました。アルツハイマー型認知症は進行性の脳疾患で、記憶や思考能力がゆっくりと低下し、最終的には日常生活における単純な能力も失われます。記憶喪失する範囲が加齢による物忘れより大きくなり、徐々に記憶障害が進行します。これらの症例は男性よりも女性に多く見られることが特徴です。
アルツハイマー病の有力な原因
アルツハイマ―病の原因として有力なのは、脳細胞に沈着する老廃物質のアミロイドβが情報伝達を行う神経細胞を傷つけて細胞死を起こし、脳が委縮して認知障害が現れるという説です。
■アミロイドβの蓄積による神経細胞死(図1)
アルツハイマー病の患者の脳を調べたところ、同世代の健常な脳の3倍以上もの老化物質の AGEsが蓄積していることが報告されています。アミロイドβやタウというたんぱく質が脳内に蓄積して、脳細胞を圧迫して神経細胞を変性させたり、脳を委縮すると考えられています。
活発に活動する脳細胞に大量に存在するミトコンドリア
ミトコンドリアは活発に活動する脳細胞に大量に存在します。そのミトコンドリアの重要な役割であるアポトーシスが、アルツハイマー病患者の脳神経細胞の多くに起きていることが確認されています。
機能障害を起こすミトコンドリアは
脳神経細胞は加齢とともに減少していき、再生されることはほとんどありません。アルツハイマー病では神経細胞の死滅、減少が老化を上回るスピードで進みます。本来アポトーシスは劣化した細胞をすみやかに分解・排除して全体の機能を維持する作用ですが、機能障害を起こしたミトコンドリアは正常な脳神経細胞にも死をもたらし、認知症が進行すると考えられています。
■アルツハイマー型認知症による脳の萎縮(図2)
免疫細胞の一種であるミクログリアは、脳内のアミロイドβの蓄積が増えると活性化し、炎症を起こします。この脳内炎症によって脳内環境を維持するグリア細胞などの機能が悪化して、さらに異物を処理するために炎症が起き、脳細胞が死んで脳が委縮していきます。
アポトーシスはミトコンドリアを中心に厳重にコントロールされており、多くの条件がそろって初めて起動するシステムです。しかし活性酸素や毒性の強い物質が増加すると、ミトコンドリアが機能障害を起こし、エネルギー代謝異常や神経細胞のアポトーシスをもたらすことが明らかになってきました。
栄養書庫発行 : 『よくわかる健康サイエンス-03 神様の贈り物 ミトコンドリア活性で老い知らず』より