増加傾向にあるアトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下した状態に、アレルゲンの侵入やストレスなどのさまざまな環境要因が重なって起こると考えられています(図1)。
かゆみを伴う湿疹が特徴で、ひどくなるとかゆみで眠れないなど日常生活にも影響を及ぼします。厚生労働省の調査では2008 年では約35万人でしたが、2017年には約51万人となり、現在も増加傾向にあると言われています。先進国では人口の10~13%が罹患しているという報告もあります。
■アトピー性皮膚炎のかゆみのメカニズム(図1)
アトピー性皮膚炎は、lgE抗体が関与するⅠ型アレルギー疾患のひとつと考えられます。さらに体内の免疫機構の過剰反応により、Tリンパ球が産生する炎症作用で皮膚組織にⅣ型アレルギーを伴う湿疹反応が起こり、かゆみ知覚神経の伸長も伴います。
黄色ブドウ球菌が疾患を悪化させる
皮膚常在菌の黄色ブドウ球菌は、こうしたアトピー性皮膚炎の患者にコロニーを形成し、炎症を促進させて疾患を悪化させます。カリフォルニア大学サンディエゴ校の皮膚科の研究チームが、皮膚の常在菌CNSのひとつ、スタフィロコッカス・ホミニスA9(ShA9)に注目し、アトピー性皮膚炎患者の局所療法として臨床試験を行いました(図2)。
■スタフィロコッカス・ホミニスが黄色ブドウ球菌を減少させる(図2)
アトピー性皮膚炎の成人患者54人の前腕皮膚に、スタフィロコッカス・ホミニスA9(ShA9)を含むローション、またはこれを含まないローションを塗布する無作為二重盲検試験を1週間行ったところ、ShA9を塗布した群で黄色ブドウ球菌の有意な減少とShA9の増加が見られました。
表皮ブドウ球菌が炎症を抑える
その結果、ShA9を投与した患者の黄色ブドウ球菌の減少が見られ、ShA9が増加したことが報告されています。またShA9で殺菌できなかった一部の黄色ブドウ球菌も、その作り出す毒素(psma)のmRNAが阻害されることが確認されています。このため、ShA9は黄色ブドウ球菌とその毒素を阻害し、炎症を抑制し皮膚のバリア機能を修復する役割を果たすと結論づけられました。
今後、さらに表皮ブドウ球菌を含むCNS の研究が進むことで、アトピー性皮膚炎の新たな治療アプローチになると期待されています。
栄養書庫発行 : 『よくわかる健康サイエンス-5 美肌菌きれい研究ブック』より