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研究のきっかけは「真っ黒」なコーヒー!?

金沢大学名誉教授・日本コーヒー文化学会副会長
廣瀬 幸雄 工学博士 

廣瀬幸雄先生

「コーヒー学」研究の始まりと経緯

私、廣瀬幸雄は工学博士なのですが、「コーヒー博士」と呼ばれることの方が多いかもしれません。そんな私がコーヒーに注目するようになったきっかけは、40年ほど前に遡ります。新任の大学に着任する朝、キャンパスの近くにある喫茶店に立ち寄ったときのことです。何気なく注文したコーヒーは、それまで見たことがないほど真っ黒な液体でした。
「一体どうしたらこんなに真っ黒なコーヒーができるのか?」 店主に尋ねたところ、特別な焙煎をしているとの答えが返ってきました。「こんなコーヒーが他にもあるのだろうか……」と興味を持った私は、コーヒーの研究にのめり込んでいきます。

コーヒー生産国40か国以上を訪れる

まず日本全国の喫茶店を訪ね歩き、さらには海外のカフェにも足を運びました。調査を重ねるうちに、次に着目するようになったのはコーヒー豆の産地です。温暖な気候、適度な雨量など、一定の気候を満たさないと生育しないコーヒー。赤道をはさんだ南緯25度から北緯25度の間、通称「コーヒーベルト」と呼ばれる地域で、ほとんどがここで生産されています。コーヒーを生産している60数か国のうち、これまで40か国以上を訪れたでしょうか。

コーヒー学という学問

その傍ら、専門である工学的な興味から、焙煎機の製作も手がけるようになりました。粉ミルクの缶を改良した焙煎機から始まり、次第に「もっと美味しく、身体にいいコーヒーを作りたい」という想いから試行錯誤を重ね、遠赤外線を使用した焙煎機や、抗酸化作用のある水素を使った焙煎機などを完成させました。
そうして色々な角度からコーヒーを研究するなかで、コーヒー農園の経営者をはじめ、喫茶店やカフェの店主、栄養学や経済学、歴史学などさまざまな分野の専門家の方々と出会う内に、「これはもはや、『コーヒー学』という学問なのではないか」と考えるに至ったのです。

日本初のコーヒー学講座

1994年、コーヒーの生産・加工、コーヒーに関する文化や歴史、科学などを研究する「日本コーヒー文化学会」が設立されました。さらに1997年には金沢大学で、社会人向けの公開講座「コーヒー学入門」がスタート。現在では、全国各地で開催する人気講座となっています。2000年からは、金沢大学で正規の授業として「コーヒー学講座」を設置。コーヒーについて多角的に学び、単位が取得できる日本初の授業として、学生の人気を博しています。

「身体にいい」からこそ、昔から飲まれてきたコーヒー

ところで、昔はよく「コーヒーは胃に悪い」という話を聞きました。もちろんコーヒーに含まれるカフェインの過剰摂取は身体に害があり、1日に何十杯も飲むのは危険です。しかしカフェインには、頭をすっきりさせる効果や、脂肪を燃焼させる効果など、人間にとってプラスな効果もたくさんあります。また、同じくコーヒーに含まれるクロロゲン酸には、活性酸素を還元し病気を防ぐ作用があります。さらに、コーヒー豆の香りによって「リラックス効果が高まる」、あるいは「集中力が高まる」といった効果の違いを示す研究報告もされています。コーヒーが持つすぐれた薬効や、効果的な飲み方などについて、ぜひ理解を深めていただきたいと思います。

コーヒー模様

廣瀬 幸雄(ひろせ ゆきお)

工学博士

金沢大学名誉教授・日本コーヒー文化学会副会長

金沢大学(理学部、大学院教授)退職後、同大学特任教授(平成26年まで)。現在は名誉教授。専門は破壊物理学。中谷宇吉郎雪の科学館館長(平成26年から)。日本コーヒー文化学会副会長(平成16年から)。イグ・ノーベル賞、文部科学大臣賞を受賞。工学博士。

栄養書庫発行 : 『Nutrient Library-5 コーヒー豆の健康・美容力』より

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