東京農工大学大学院 農学研究院教授
田中 あかね 獣医学博士
核酸の研究は獣医の立場から
私は獣医という立場から核酸の研究に携わっています。獣医というと動物のお医者さんのようなイメージがあるかもしれませんが、獣医が活躍する場というのはたくさんあります。私は犬猫の診察も行いますが、大学院から疾患モデルと呼ばれるモデル動物を使った研究をずっと続けています。
動物の疾患モデルというのは糖尿病や緑内障、がんなどの人の病気を再現できる動物です。その中でもアレルギーのモデル動物を使った研究を続けていたところ、試験をやってほしいというご要望を企業の方から受けることが多く、核酸は約4年前から研究を始めるようになりました。
核酸とは
核酸というのは、私達の体の中にある細胞に含まれているDNAやRNAのことです。DNAは皆さんがご存じのとおり、遺伝子情報を収納しているところで、私達の細胞の一つ一つにある核の中にたくさん含まれています。そしてDNAから遺伝子情報を取り出してきて、機能するためのタンパク質に置き換えるにはRNAという分子が必要になります。このDNAとRNAを含めて核酸という呼び方をしています。
細胞の大元
核酸は、私達の体の中(細胞)にもたくさんありますし、植物や動物の細胞の中にもくまなく入っています。つまり核酸は私達の細胞の大元と言えます。
RNAは常にリニューアルしていて、そのためには材料となる核酸が必要になります。核酸を食品やサプリメントから摂取することは、DNAやRNAを強化し、私達が本来持っている再生機能をスムーズにしたり、免疫機能をアップすることに繋がると考えられています。
ダイレクトに免疫機能に働きかける
さらに近年の研究では、体の中に入ってきた核酸は、そのままの形でダイレクトに免疫系の細胞に働きかけることがわかってきました。しかもその働きは、免疫機能を強化すると同時に、過剰に活性化してしまった、アレルギーのような免疫は抑えるという2つの役割を持っているのです。
身近な核酸医療
核酸の研究は、がん、認知機能、肝障害、アレルギー、慢性炎症性疾患など、この20年ほどで多岐に渡ってかなり増え、特にがんの研究が進んでいます。こうした医療系の核酸研究は、核酸医療とも呼ばれています。
マイクロRNAという言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。これはDNAをレコード(複写)していないRNAの断片(イントロ)のことですが、以前はいらないRNAとして捨てられている、もしくは再利用されていると考えられていました。それが実は細胞の外に出て、他の細胞や免疫機能に影響していることも近年の研究でわかってきました。こうした核酸医療の研究で、今もっとも私達に身近で成果を上げているのがコロナワクチンのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンと言えるでしょう。
核酸の大きな可能性
ただ核酸はサプリメントや食物として摂り入れた場合、私たちの身体の中でどのように消化されて、どういった形で吸収されているかなど、実はまだまだ解明されていない部分も多いのが現状です。しかし、その栄養価値は人間の身体に欠かすことのできない第6の栄養素とまで言われており、手術後の栄養剤や点滴、赤ちゃんが飲む粉ミルクなどには実際に添加されています。
こうした核酸の役割は、今後さらに研究が進むことで解明され、病気の治療や健康長寿につながる大きな可能性が広がっています。
私は専門が獣医ということもあり、核酸の研究をゆくゆくは人だけでなく、動物たちの健康や長寿にも繋げられればと期待しています。
田中 あかね(たなか あかね)
獣医学博士
東京農工大学大学院 農学研究院教授
動物生命科学部門 比較動物医学研究室
東京農工大学 農学部共同獣医学科で獣医師免許を取得し、卒業後は臨床に従事。現在は東京農工大学の教授として比較動物医学研究室に籍を置き、免疫・腫瘍学を専門分野として、肥満細胞の腫瘍性増殖における細胞周期調節タンパクの発現動態の解析、肥満細胞の腫瘍性増殖や免疫学的活性化における転写因子NF-κBの役割を解明。肥満細胞、さらに広く免疫系細胞の増殖や活性化を制御する分子標的治療法の確立を目指している。
栄養書庫発行 : 『Nutrient Library-34 核酸の秘密』より