
腸でつくられた短鎖脂肪酸の働き
私たちが野菜などからとる食物繊維は人の消化酵素では分解できず、大腸で腸内細菌のエサになります。そのとき生まれる酢酸・酪酸・プロピオン酸などの「短鎖脂肪酸」は、血管の内皮細胞や血圧を調節する受容体に働きかけ、血管をしなやかに保ち、過剰な収縮を抑えることが分かってきました。短鎖脂肪酸が不足すると血圧が上がりやすく、逆に増えると血管機能が改善するという報告もあります。
(DOI:10.3389/fcvm.2022.900381)
生活習慣病のリスクが下がるという報告
短鎖脂肪酸は血液に乗って全身を巡り、肝臓や脂肪細胞だけでなく血管や心臓にも届きます。食物繊維を増やして短鎖脂肪酸を高めることで、インスリンの効きが良くなり、肥満や生活習慣病のリスクが下がるというヒト試験や動物実験が報告されています。
(DOI:10.1038/nrendo.2015.128)

短鎖脂肪酸は脳にも届く
こうした代謝改善は、動脈硬化や血流の悪化を防ぐことにもつながり、結果として脳への血流も守ると考えられます。
さらに腸で作られた短鎖脂肪酸は「腸−脳相関」を通じて脳にも届きます。酪酸などは血液脳関門を通過し、脳細胞のエネルギー代謝や神経栄養因子の産生を高め、記憶や学習の低下を防ぐのをサポートしたという動物実験が報告されています。
(DOI:10.1172/JCI154612)
その菌が何を作っているかが大事
大事なのは、「どの菌がいるか」以上に「その菌が何を作っているか」です。腸内細菌の種類やバランスが変わると、体内を巡る短鎖脂肪酸などの代謝産物も変わります。血管を守り血流をなめらかにする分子が多ければ、脳への酸素や栄養の供給も安定し、認知機能や心のコンディションも良好に保たれます。逆にバランスの乱れが続けば、血流障害や脳機能の低下と結びつきやすい――そんな姿が少しずつ明らかになってきているのです。
■ プロバイオティクス乳で感情脳の反応が弱まる
健康な女性にプロバイオティクス入り発酵乳を4週間飲んでもらうと、怒りや恐怖の顔を見たときの扁桃体や島皮質など感情に関わる脳領域の活動が低下しました。
図はFMPP(プロバイオティクス入り乳酸菌)摂取群で有意な活動低下が見られた部位を示し、「腸からの刺激」が脳の反応を変えることを示しています。

栄養書庫発行 : 『よくわかる健康サイエンス-15 そうだったのか!マイクロバイオーム』より















