あらゆる場所で動き回りなんでもよく食べる働き者マクロファージとは
マクロファージは、異物を食べて排除する自然免疫の中心的な細胞です。食欲旺盛で貪食細胞ともいいます。体のいたる組織に常にいて、組織でできた異物(死んだ細胞や変性したたんぱく質、がん細胞など)を食べます。
また、体の組織を作ったり修復する機能を持ち、自然治癒システムで重要な役割を果たしています。
ところで、マクロファージには、骨髄由来と卵黄のう由来の2つがあります。骨髄由来のマクロファージとは、骨髄にいる細胞が、血液中に移動し単球となり、体の色々な組織に移行して分化した細胞です。体のなかをアメーバのように動き回り、いわば体内のパトロール隊のように外から入ってきた異物(ウイルス、細菌など)を食べ、獲得免疫システムに何を食べたのか情報を発信します。この情報をキャッチしたT細胞が、抗体を作るB.細胞や異物を攻撃するキラーT細胞に指示を出し、獲得免疫システムが働き始めるのです。
一方、卵黄のう由来のマクロファージとは、胎児のときに卵黄のうにある原始マクロファージが体のさまざまな組織(肌や脳など)に移って、そこでずっと育ってきた細胞です。組織を守り、健康な状態を日々保つ働きをしています。
健康な皮膚を維持する大事な細胞
自然免疫が目指す美肌とは、卵黄のう由来のマクロファージを主体に健康な状態を保った肌のことです。マクロファージは体のあらゆる場所に存在し、もちろん肌にもいます。
ここで登場するのが、卵黄のう由来のランゲルハンス細胞です。ランゲルハンス細胞は表皮の有棘層にあり、樹状の皮膚マクロファージの一つです。
慶応義塾大学医学部皮膚科の天谷教授らのグループは、樹状突起がタイトジャンクション※を壊すことなく角質層に突き出て、外界と接触していることを発見しました。
異物が肌に侵入すると、この樹状突起が異物を取り込み、自然免疫システムに情報を伝えます。ここから獲得免疫システムに情報を伝え始めるのです。
さらにランゲルハンス細胞は、傷んだ肌の修復、バリア機能の向上、抗炎症などさまざまな作用をもたらします。外からの異物に反応するだけでなく、肌の健康維持にも深く関係しているのです。
※タイトジャンクション 細胞と細胞が結合している部分のうち、最も先端にある結合部のこと
グラム陽性菌、グラム陰性菌とは
生物とともに進化の道を歩んできた共生細菌は、グラム陽性菌とグラム陰性菌という2つの大きなグループにわけられます。グラム陽性菌には主に乳酸菌や枯草菌などが、グラム陰性菌には主に酢酸菌やパントエア菌が属しています。
この2つの細菌の違いは細胞壁の厚さです。体にとっていい菌、悪い菌という分類は関わっていません。
グラム陽性菌の細胞壁は約80nm.と厚く、細胞内の気圧は20.気圧にものぼります。細胞壁が硬いため、自身をしっかりと守ることができます。
一方、グラム陰性菌の細胞壁は約 8nmと薄く、細胞内の気圧は5~8.気圧程度です。細胞自体がやわらかく、LPSを含む自身の一部を粒子として放出(アウターメンブレンベシクル:OMV)するので情報を提供しやすい性質、つまり体とクロストークしやすい性質を持ちます。
このことからグラム陰性菌は、多細胞生物とクロストークするときに使い勝手のいい細菌だったのだと考えられています。
マクロファージとLPS2つの関係が生む健康維持への働き
自然免疫システムの働きに重要なことは、マクロファージの活発な働きです。これを支えるのが、すべてのグラム陰性菌に含まれている LPSです。
マクロファージを異物に対して活発に反応できる状態を、プライミングといいます。異物と出合えば力強く排除し、出合わないときは緩やかに元の状態に戻ります。LPSがマクロファージをプライミングさせる量は、ペプチドグリカン※1やβグルカン※2のわずか1,000~10,000分の1ととても少量で作用する力があります。
プライミングには、LPSを認識する受け皿(受容体)が必要です。LPSの主な受容体はTLR4(トルライク・レセプター4)といい、異物識別たんぱく質の分子群の一つです。人間のTLRは10種類あります。この事実は、2011年にノーベル賞生理学・医学賞を受賞した研究 ※3によって明らかになりました。この研究以降に、人間の健康維持にLPSが必要であることを示す証明がたくさん出てきました。
LPSを含んだグラム陰性菌の一つに、パントエア菌が挙げられます。パントエア菌は窒素固定、不溶性リンの可溶化、植物内に入っての感染予防効果(エンドファイト)など、いわば植物にとっての善玉菌といえる菌で、さまざまな植物に共生しています。そこに含まれている LPSは、口や肌から摂取されれば、プライミングさせる働きがあります。
LPSは静脈注射すると体中の免疫反応を活性化することから、エンドトシキンと呼ばれていたことがあります。しかし、LPSは食べたり肌に塗ったりしても全く危険性はありませんし、体の健康維持に必要な成分であると考えられています。同じように、食べ物を注射すると猛毒になるものはいくつもあります。
たとえばにがりを含む豆腐も食べれば栄養になりますが、静脈注射すれば猛毒になるなど、食べるものと注射では体の反応が全く異なるものはたくさんあります。
※1 ペプチドグリカン→ 多糖とペプチドから成る。真性細菌の細胞膜の外側に層を形成する、細胞壁の主要物質。
※2 βグルカン →多糖類の一種で、食物繊維の仲間。キノコ類や酵母などの細胞壁に存在する成分で、胃腸で消化・分解されず、腸内の免疫細胞に働きかける。
※ 3 2011年ノーベル賞生理学・医学賞.アメリカのブルース・ボイトラー博士と、フランスのジュールズ・ホフマン博士による研究「自然免疫の活性化に関わる発見」アメリカのラルフ・スタインマン博士による研究「獲得免疫における樹上細胞の役割の解明」
栄養書庫発行 : 『Nutrient Library-13 パントエア菌LPSの美肌力』より