カンナビノイド欠乏症という概念
エンドカンナビノイドシステムが身体機能のトラブルに際して本来の状態に戻そうと働くとき、内因性カンナビノイドは細胞間の情報伝達物質として機能します。このとき内因性カンナビノイドの生成に不足があれば、エンドカンナビノイドシステムは充分な働きができません。やがて神経機能や免疫システムの不調がさまざまな症状となって現れてきます。この状態を内因性カンナビノイド欠乏症と呼んでいます。加齢のほか、強いストレスや重度の感染症など、心身に過度の負荷がかかることも影響します。
多くの「難病」の根本原因として
2004年、「臨床的内因性カンナビノイド欠乏症(CECD)」という概念が、偏頭痛・線維筋痛症・過敏性腸炎症候群の原因としてはじめて提案され、注目を集めました。治療が困難とされている疾患も、原因をたどることで治療の選択肢が広がるかもしれません。
エンドカンナビノイドシステムは、神経制御と免疫システムの調整という重要な身体維持機能に関わっているため、その機能低下はさまざまな不調につながることが予想されました。その後の研究では、以下のような多くの疾患や病態についてもカンナビノイド欠乏症が根本的な原因である可能性が示唆されています。
カンナビノイドの補給
足りないものは補う。植物性カンナビノイド、つまりアサがつくるカンナビノイドを利用することで、欠乏している内因性カンナビノイドを補充することができます。アサのカンナビノイドは内因性カンナビノイドと同じように作用します。
エンドカンナビノイドシステムの働きを維持していくためには、植物性カンナビノイドの摂取が効果的なサポートとなります。
注目されるヘンプオイル
最近では、種子から採れるヘンプオイル(ヘンプシード・オイル)も注目されています。ヘンプオイルは、オメガ6系脂肪酸のリノール酸とオメガ3系脂肪酸のα-リノレン酸を高い比率で含み、それがエンドカンナビノイドシステムの働きを活発にする効果をもたらすようです。
動物実験の一例ですが、『オメガ3系とオメガ6系の脂肪酸の比率が高い餌を摂取すると、比率の低い餌の場合に比べて脳内のCB1受容体の働きが強まり、シナプス伝達による脳神経回路の過活性化が抑えられ、恐怖体験に基づいて形成される記憶を抑制した』という結果があり、その脳内メカニズムも明らかにされています(国立精神・神経医療研究センター)。
ヘンプオイルのほかには亜麻仁油、魚油のDHA(ドコサヘキサエン酸)や EPA(エイコサペンタエン酸)もエンドカンナビノイドシステムの働きを強める効果があるようです。
麻の実の栄養価
アサの種子は、タンパク質・脂肪酸・食物繊維を約3割ずつバランスよく含む。鉄・銅・亜鉛・マグネシウムなどのミネラルも豊富。タンパク質はエディステイン・タンパクと呼ばれる消化吸収の良い性質を持ち、必須アミノ酸8種を含む。脂肪酸では、必須脂肪酸のリノール酸とα-リノレン酸が3:1という厚生労働省や世界保健機関(WHO)が推奨する理想的なバランスで含まれている。
漢方ではアサは「捨てるところがない」と言われ、全草が薬になる。なかでも種子(漢方では麻子仁が通称)は最も多用され、さまざまな疾患に処方されている。その薬理効果ははっきりと解明されているわけではないが、疲労回復や血流改善などの効果は栄養価の高さによる相乗効果が考えられる。
栄養書庫発行 : 『カンナビノイドマスター入門』より