東洋大学 生命科学部生命科学科 教授
金子(大谷) 律子 医学博士
神経生物学
私は現在、「神経生物学」を専門とし、東洋大学で学生たちと研究の日々を送っています。神経生物学はかなり多岐にわたっているのですが、主に脳の発達に関する研究を行っていて、特に脳の男女差、脳と性ステロイドホルモンの結びつき(ホルモンがニューロンに及ぼす影響)を調べることが、大きな研究テーマのひとつになっています。
生きる上で無くてはならないホルモン
ホルモンは私たちが生きる上で無くてはならない物質です。暑くなれば神経系が主に働いて汗をかき体温を下げます。感染が起これば免疫系が抗体を作って防御します。これらの系と協働して血糖値など身体の生理的状態を一定にすることにホルモン(内分泌系)は日々働いています。それだけでなく、妊娠・出産から乳幼児の成長、思春期などの変化をもたらす主な要素はホルモンです。
ホルモンは脳や膵臓、副腎、心臓など、さまざまな臓器にある細胞で作られ、ターゲットになる特定の細胞に指令を受け渡す情報伝達物質(生理活性物質と呼ばれる分子の仲間)です。数え方によっては 100種類以上あると言われていて、それぞれ働きが異なっています。
内分泌腺だけでなくさまざまな器官からホルモンが分泌されている
従来、「ホルモンは内分泌腺の細胞から分泌され、血液中を流れて、目的とする細胞(標的細胞)に作用する」と言われてきました。内分泌線というのは、松果体、下垂体、甲状腺、副腎、生殖腺などのことで、耳にすることも多いかと思います。
しかし現在では、内分泌線以外の腸や腎臓、心臓など、さまざまな器官からもホルモンが分泌されていることが知られています。さらにホルモンは血中を流れて標的細胞に運ばれるだけでなく、組織液を流れて近くの標的細胞に作用する傍分泌や、分泌細胞に作用する自己分泌という作用の仕方もあることがわかっています。
ホルモンと神経系、免疫系が複雑に相互作用して体の状態をキープ
そこで現在では「ホルモンは内分泌腺のほか、全身のさまざまな部位で作られ、血液や組織液を流れて標的細胞に作用する生理活性物質」と言われることが多いです。
ヒトの体にはホルモン以外にも神経系、免疫系という生理調節システムがあり、この3つのシステムが複雑に連携しあって体をコントロールしています。例えばストレスに反応して分泌されるコルチゾールには、免疫系の反応を抑制して過剰な炎症を防ぐ作用などがあります。ホルモンと神経系、免疫系は複雑に相互作用し合いながら、体の状態をキープしているのです。この3つの系で働く物質(ホルモン、神経伝達物質、免疫作動物質)はまとめて「生理活性物質」と呼ばれます。
こうした免疫系や神経系と内分泌系(ホルモンの系との相互作用)に関しては、まだまだ解明されていない部分も多くあります。これからの研究では、神経系、免疫系も合わせた3つ巴の中で、ホルモンがどのように関わっているのか、さらに注目を浴びてくるのではないかと思っています。
金子(大谷) 律子 (かねこ(おおたに) りつこ)
医学博士
東洋大学 生命科学部生命科学科 教授
医学博士。専門分野は脳神経科学、神経生物学、内分泌学。東京大学理学部動物学教室卒業、同大学理学系研究科動物学専攻修士課程修了。山形大学医学部、、カナダ・アルバタ大学医学部、聖マリアンナ医科大学を経て、2006年より東洋大学生命科学部教授に就任。一般向けホルモン解説書として「ホルモンのはたらき パーフェクトガイド」(日経ナショナル・ジオグラフィック社)の日本語版監修なども行っている。
栄養書庫発行 : 『よくわかる健康サイエンス-7 成長ホルモンを味方にする本』より