アルツハイマー型認知症
テストステロンが認知機能の維持・向上に関連していることが分かってきました。アルツハイマー型認知症は脳にアミロイドβというたんぱく質が蓄積され、それが増加するとその毒性から脳の神経細胞が徐々に死滅し、認知や記憶の障害が現れます。
テストステロンがアミロイドβを抑制
これまでに行われた多くの研究により、テストステロンはアミロイドβたんぱく質の産生を抑制し、アミロイドβの毒性に対して神経を保護する機能などを持つことが解明されました(図1)。
また、精巣を摘出したマウスはテストステロン・レベルが低下し、脳内のアミロイドβ量が増加します。しかし、そのマウスにテストステロンを補充することによって、アミロイドβの増加が抑制されることも確認されました。
■テストステロンが脳シナプスのアミロイドβによる減少を弱めた(図1)
記憶の中枢である海馬(ラット)のニューロン(神経細胞)を 10 nM 濃度のテストステロンで 1 時間処理した後、5μM 濃度のアミロイドβ に24時間曝露したところ、アミロイドβの毒性によるシナプスのマーカー(神経細胞の数や密度の指標)の減少が抑制されたことが示された。
テストステロンと認知機能
東京大学の太田英隆らによる研究により、老化促進モデルマウスの中でも認知機能障害が現れている SAMP8(認知機能障害モデル)マウスに対し、テストステロンを補充したところ、認知機能が改善しました(図2)。
■テストステロン補充による認知機能改善効果(図2)
認知機能障害と性腺機能低下症を示す老化促進マウス(SAMP8)の認知機能低下がテストステロンによって改善するか調査したところ、テストステロンが海馬血管内皮細胞の老化を抑制することが認められた。
運動がテストステロンを介して認知機能に働きかける
さらに、運動がテストステロンを介して認知機能に働きかけることも分かってきました。筑波大学の柾矢英昭らのラットによる研究によれば、低強度の運動でも脳の海馬が活性化し、睾丸を除去しテストステロン産生を阻害したラットでも、神経新生が増強されたことが確認されました。
運動によってテストステロンが海馬で合成分泌され、男性ホルモン受容体を介して神経新生を助ける可能性が示されたのです。
栄養書庫発行 : 『よくわかる健康サイエンス-4 テストステロンの健康力』より